mimiyori_mee

日々のこと

四丁目の領分

伊達くんが引っ越しをした。

伊達くんが引っ越しをして、父親になった。

 

いつも何かがあったとき、

連絡をするのはわたしのほうで

たとえば、凶悪な事件が起こったとき、

小さな男の子に女性専用車両について尋ねられたとき、

人に言われた言葉の意味がよくわからなかったとき。

この世界で起きる出来事に答えを見つけられなかったとき、

即座にあたまに思い浮かぶのはいつも伊達くんのことだった。

伊達くんならどう思うだろう

伊達くんなら。

わたしの思考をトレースして、

だけどその上で、この世界の正解を示してくれるだろう。

いつもわたしは自分のことばかりで、

伊達くんは自分のしあわせさえ

こんなわたしに遠慮をして伝えられずにいたのに。

 

飲み会とかで

好きなタイプは?と聞かれたら、

いつもこう答えている。

ランチを頼んで、

わたしのほうのサラダに

小さな虫が入っていたときに

そっと自分のサラダと取り替えてくれる人。

今はまだ見つかっていないけど、

ましてこの話は、だれにも共感されたことがないけれど。

 

最後の記憶はCanteで、

伊達くんはまた水でいいとか言って、

あの日わたしはけっこんしてくださいと言おうと決めていたのに、

なぜかまったく真逆のことを言って別れたのだった。

伊達くんのためにも、わたしのためにも

その決断に後悔は欠片もなかったけれど、

その正しさがやっと証明された気がして、

生まれたてのやわらかであたたかなその生命を目にしたとき、

心がふるえるくらい、ほんとうにうれしかったんだ。

 

わたしは、あれからまだ

小さな虫の入ったサラダを何も言わずに

きれいに食べてしまえるような

世界に対して臆病なくらいに強くてやさしい人には

出会えていないけれど、


宇宙人は心のやさしい人間を不幸にしてしまうから、

どうか捕まらないように、

くれぐれも注意してほしいなとも思っている。

 

お祝いを言いたかったのに。

また自分のことばっかりだ。

 

伊達くん、おめでとう。

伊達くんの元に生まれてこれたしあわせでやさしい生命は

この複雑で攻撃的で不安だらけの世界でも

伊達くんのように力強く、

きれいであたたかなものたちを見つけだして、

ふかふかの人生を歩むよ

必ず。

 
静かな1年の終わり、
知らない街のそこにも四丁目があって、
こことうっすりとでも繋がっていたらいいなと思う。