mimiyori_mee

日々のこと

七つの約束

こんなときに、 ヘルニアで3週間入院していた。 会社で急に立てなくなって、 激痛に息もできなくて 初めて救急車に乗せられた。 制服はしわくちゃで、 座薬はまったく効かなくて 汗となみだでぐしゃぐしゃで 何の準備も覚悟もないまま、 その日のうちに初め…

四丁目の領分

伊達くんが引っ越しをした。 伊達くんが引っ越しをして、父親になった。 いつも何かがあったとき、 連絡をするのはわたしのほうで たとえば、凶悪な事件が起こったとき、 小さな男の子に女性専用車両について尋ねられたとき、 人に言われた言葉の意味がよく…

ねじの人

彼の名は、たろうさんという。苗字は「足立」だけれど、社内に足立がふたりいて、どちらの足立も男性で課長でややこしいからみんなからは下の名前で呼ばれている。1年間の無職期間を経て、わたしが入った会社はねじの商社で「わたし」を知る人には到底信じ…

最恋の晩餐

それは銀色の硬い種だ。細いどんぐりのような大きさで、直線の溝が数本走っている。鋼のようなチタンのような、僕はこの種の育て方を知らない。でもこの種が、何物にも換えがたい、大切な種であることを知っている。彼が意識や自我、肉体について記述すると…

僕の芝生

彼女とは11時半に八幡市駅で待ち合わせた。僕は待ち合わせや時間の約束が不得手だから、寝る前に駅の路線図や乗り換えの時間を調べていたら、なかなか寝つけず、結果相当な早起きをした。寒そうな格好をして相手に心配させるのは悪だと、たぶん萌絵ちゃん…

心が割れている

隣に住んでいる男は、スネ夫に似ている。背が低くて、髪の毛が黒くてギザギザで、いつも暗いスーツを着ている。僕より少し年下かもしれない。じめっとして、おとなしい感じがする。時々エレベーターで一緒になるけれど、おたがいに顔も見ない。スネ夫は夜中…

こどもの王様

てゅんはこどもの王様だ。てゅんはゆかりの同期で、だから僕からすればせんぱいなのだけど、年が同じで、身長が僕の半分くらいしかなくて、アニメのどちらかというといじわるな脇役が大好きで、マリオのスニーカーを恥ずかしげもなく履いているのを見て、な…

五月の物語

僕は物語の終わりや最終回が苦手だ。5月、社会人になって迎えた初めてのGW、僕は名古屋にいた。知らない人間も多かったけど、何人かのなつかしい顔があり、伸びた茶髪やパーマ頭がそろって短い黒髪になっていたのが気恥ずかしかった。たった1ヶ月そこらの…

夜の会話

あきらめ、憎しみ、嫉妬、殺意、絶望、孤独、焦り、恐怖、不安、怒り、苦しみ。たくさんのかなしいものが降りつもっていた。その上澄みで生きていた。せめて僕は、僕と話すことができたらいいのに。これからもどうしても生きていかなくてはいけないのだとし…

Your message could not be delivered

見覚えのあるアドレスからメールが届いた。中身を見ないでごみ箱に捨てた。すぐに拒否設定した。中身を読んでいないこと、拒否設定をしたことが相手に通知されればいいのにと思った。新年は平安神宮へ行った。 妹に安産のおまもりを買った。 何年かぶりに神…

苦るしいのです

伊丹市立美術館の鴨居玲展へ。鴨居玲を知ったのは数年前の神戸での美術館。悪魔のような黒と赤の歪んだ顔、 第一印象は不吉なジョーカーだった。額がなかったので、息を止めて、近づいた。脈打つ鼓動のように盛り上がった絵の具の凹凸に、はじめて絵に分厚さ…

あほのせんぱいのこと

僕にはせんぱいがいる。せんぱいは野心家で、じぶんが長いと思ったものにはくるんと巻かれる。せんぱいの裏表は透けて見えているのに、本人はそのことにまったく気づいていないので、僕は「裸の王様」に近い気持ちであほのせんぱいと呼んでいた。もちろん心…

がしゃがしゃぴー

昨日は妹の誕生日だったので、数週間ぶりに連絡をとって、仕事終わりにごはんに誘った。待ち合わせ場所に着くと、恥ずかしそうに母親もいた。普段はヒールばかり履いているのに、流行りだからか彼氏が自分より身長が低いからかスニーカーが欲しいと言ってい…

種まき

小鳥が僕の手の中でかりかりに痩せて、針と毛みたいになって、手にくちゃくちゃにくっついてこびりついて取れなくなる夢を見た。僕はじぶんを責めているし、誰かから責められてもいるのだと思った。五階にある僕の部屋の向かいにはビジネスホテルと蕎麦屋が…

宇宙人との暗い友情

しぬということについて考えていた。テレビからの笑い声や 道を歩く楽しそうな人たちの顔が ゆるせなかった。他愛もないことを毎日報告してくる母親にも 憎しみを感じるようになって、 しばらく連絡してこないでほしいと言った。母親はりゆうを聞かなかった。…

ねずみ色の信念

昨日は仕事で失敗をして、ほとんどねむれなかった。夜中に心臓がどきどき鳴って、今この時間にできることは何もないのに、いてもたってもいられなくて、このまま朝が来なかったらいいのにと思った。僕には、ニートだった期間がある。大学を卒業して社会人に…

日々欠けてゆく

しばらく放置していたら 書くべきことが思い当たらなくなって このまま三日坊主になると思った。K2 Recordsへ行った。棚が変わっていて、 気がつけば1時間ほどいた。ぜんぶにPOPが付いていたらいいのにと思いながら、今月の冒険枠はArctic Hospitalとドラマ…

関係はいつもほつれ、からまっている

佐倉にゆかりの悪口を言われた。ゆかりとは入社してから5年以上のつきあいになる。年はひとつ下だけど、社歴は一年先ぱいで、ずば抜けて仕事ができるけど、がさつで気の強いところがあって、思ったことをそのまま言うから、誤解をされることが多い。でも、…

この気持ちもどうせ埋めてしまうんだろう

実家の小鳥がしにそうだと母から連絡があった。うちにはオレンジと黄色のカナリアがいて、どちらも名前はぴーちゃんで、亡くなった祖母の家から連れてこられて、もう十年以上になる。オレンジのぴーちゃんは、数年前に僕が病院につれていく途中のタクシーの…

顔のない日常

健康診断。手渡された着替えのズボンのウエストが大きすぎたので、ずり落ちないように手で押さえながら受付でサイズを替えてくださいと言うと、太った女が虫を見るような目で僕を見て、そばの棚からひったくるようにして取ったズボンを無言で僕に手渡した。 …

思い出せないことを思い出したい

目覚ましをかけずにねむったら、夢をたくさん見た。僕はよく浮浪者の夢を見る。だれか知っている人とふたりでいて、その人が浮浪者となかよく話していて、僕はその人のことをすごいな、とか、自分が苦手だと思っていることがばれないといいなと思っていて、…

電池が切れるように

おじいちゃんの妹が病院に運ばれ、 手術の結果、命はとりとめたけれど 自力での排泄ができなくなった。年を取るにつれ、 ひとりにひとつ与えられたこのからだは、 老化や病に蝕まれ、 健康なままではいられなくなる。おじいちゃんの妹はとってもハイカラで明…

染みつくルール

銀行へ行った。何年も前から記帳をしていなくて 窓口に行かなくてはいけなかったので、 なけなしの勇気をかき集めて、 やっと行った。平日の昼間、制服の人、 僕の知らない社会のルール。 窓口の女の人は直線的な髪型をしていて、 手続きに必要な紙は、ここ…

胃のなかは見えない

金曜日の夜、会社の人たちとごはんを食べに行った。僕は4人以上の集まりで話すことが苦手で、それは同時に僕以外の3人の様子を把握しにくくなるからで、きょうは5人だと聞いていたので、うまく場になじめるか緊張していた。たぶん僕が人見知りとか人前で…

ひとりの時間

僕にはひとつ下の妹がいる。背がたかくて、大人びた顔立ちで、だれにでも愛想をふりまくタイプじゃないから人を寄せつけない空気があるけれど、「晴雨兼用傘」を「はるさめ」と読む、ちょっとあたまの足りないところとか、目立つことを嫌う恥ずかしがりのと…

ねこちゃんと僕

昨日は手洗い必須の黒ねこのTシャツを着ていた。僕はねこのTシャツがすきで何枚か持っているけど、これは誕生日に人からもらったもので、正面にでかでかと毛並みのある黒ねこが立体的にプリントされている。もらったときはさすがに自分でもぎょっとしたけど…

丸めがね色めがね、君のフィルター

sunnyへ。トーコさんが丸めがねをかけていて、かわいかった。ここ数日、たくさんの人の考えを目にした。 情報は常に感情のあるだれかのフィルターを通して形にされていて、その正誤は確かめようがなかった。調べれば調べるほど平然と相反する情報があふれか…

中年A

K2 RECORDSへ。 2週間前とディスプレイが変わっていなくて、 すこしだけがっかりする。前回見つけられなかった 小瀬村晶とHowtocountonetotenを見つける。店員さんの様子がすきで、 伊達くんはあそこで働くといいなと思う。 僕の目には留まらない音楽が聴き…

うまくいかなかったことは8のせいにしよう

あやまっても、あやまっても ゆるしてもらえなかった。僕にゆるせない人がいる限り、 僕もゆるしてもらえないのだと思った。知らないだれかのために 知らないだれかにあやまり続けた。「毎日は選択の連続だ」とシュガーママは言った。朝起きてから、何をたべ…

奪われては減ってゆく

夙川へ。妹がけっこんするかもしれない。あした、妹とその彼氏と母親の3人で食事をするそうだ。相手は僕と同い年だけど、僕とは違い、年相応にきちんと年輪を重ねた、もはや「おっさん」のような人らしい。僕はたぶんきっと、妹のけっこん式には出られない…